さからえない/渡辺亘
時と光と物質と重力に
私はさからえない
しかし愛することはできる
青春の終わりに
君を愛し
それは幕切れた
後悔はしていない
私は病を得て
その後の人生を
決定的に方向づけられた
君は時
君は光
君は物質
君は重力
何も信じないより
強い何かを
得ることができた
それは信仰
信仰とは
絶えず現実を捉え直す中で
得られていく信であり
それ故に
現状を打破し
人生を前向きに生きさせる力を持つ
信仰とは
根源から湧き上がる力を
自己のものとすることであり
それ故に
他者に同苦する力を持つ
何も解っていなかったあの頃より
少しだけ賢くなったけれど
深淵を垣間見ただけのこと
いついかなる時も
深淵はこちらを見つめ
私を喰おうとしている
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