続続・田村隆一詩集 現代詩文庫を読む/葉leaf
 


木は黙っているから好きだ
木は歩いたり走ったりしないから好きだ
木は愛とか正義とかわめかないから好きだ

ほんとうにそうか
ほんとうにそうなのか

見る人が見たら
木は囁いているのだ ゆったりと静かな声で
木は歩いているのだ 空にむかって
木は稲妻のごとく走っているのだ 地の下へ
木はたしかにわめかないが
木は
愛そのものだ それでなかったら小鳥が飛んできて
枝にとまるはずがない
正義そのものだ それでなかったら地下水を根から吸いあげて
空に返すはずがない

若木
老樹

ひとつとして同じ木がない
ひとつとして同じ星の光のなかで
目ざめている
[次のページ]
戻る   Point(6)