「蕎麦っ食い」/山人
暖簾をくぐり、席に着く。
「もり大盛り」
静かに言う。
店員が厚手の湯飲みをことりと置く。
その半分を飲んでいるうちに蕎麦が運ばれてくる。
どんな蕎麦がくるのだろうか、初めて会う人を待つような心地よい緊張がある。
「お待ちどうさまでした」
いやそれほど待ってはいない。
四角いせいろの竹すの上に、細く少し透明感のある蕎麦がぷるぷると震え、体を晒している。
厳かである。
汁徳利から猪口に黒っぽい琥珀色の液体を注ぐ。
カツオの強い風味と、その周辺をおだやかに昆布の香りが満ち引きし、心地よい。
割り箸で適度に蕎麦をすくい、猪口に半分ほど沈み込ませる。
勝負の時だ、ゴングが鳴ら
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