練乳/夏美かをる
 

帰宅した父が茶色い袋から誇らしげに練乳を取り出すと
?待ってました?とばかりに
ちゃぶ台を家族五人が囲んだ
母が缶切りで蓋をあけて
中身をカップに分け入れ、
熱いお湯を注いで ぐるぐるかき混ぜる

そして皆でズーズー音を立てながら啜る
この世にこんなに美味しい飲み物があるんだ、といつも感動した

ついている練乳がもったいないと
缶の蓋を舐めた母が、唇を切ってしまったこともあった
「何欲出してるんだ、お前は!」と父がわざと怒った声を出した
「馬鹿だねぇ、私ってば」
慌ててティッシュを取りに行きながら母が笑った
「全くお前は馬鹿だ!」
そう言いながら、今度は本当に愉快
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