『く の 人』/るるりら
 

中で くの字になった その紙に書かれた文字に 
こころもからだも傾ぐ 琥珀石の中の昆虫の話を教えてくれた人はあの人だった
くの人は 
く の 字の形に 傾ぐ 
遮断機のベルが どんなにけたたたましい音をたてようとも 
どんなに麗しい琥珀色の夕映えが 呑み込もうとしても 
くの字の人には 
その掌に握られた 
たった ひとつの言葉だけに愕然とし 
その辺の紙に描いた 
書かれた 一枚の へたな絵が 
永久に自分の事だと心に決めたのでした 
 くの人の その痛みは 
          種でした 
あらんかぎりの創造力で 
胸をひらこうとしていた あの夕映え 
あの琥珀色の空を 
いまも歩く 
くの字の人の 背中が 
折れ曲がってこようとも 
どうしてもゴミにしない言葉だけで 
歩いて く 
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