歌にすら/佐々宝砂
 
あなたは汚れた布にくるまって
人工の声帯で
人工の泣き声を張り上げている

あなたのほんとうの声を奪ったのは
わたしだったのだとおもう

  *

もうあんまり覚えていないけれど
そういえば
この世界を終わらせてしまったのもわたし
みんな気づかないふりをしていたのに
土曜のつぎには日曜が
日曜のつぎには月曜が
いつもと同じように巡ってくると
信じるふりをしていたのに
世界は終わったと
告げてしまったのはたぶんこのわたし

まがいものの世界は今日もきちんと動き
あなたの人工の声帯は今日もきちんと泣き叫び
夜には人工の星空が流れゆき
朝には人工の太陽が輝き
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