鉄塔/紅月
 
流された血に名を問わぬまま白骨だけを拾っていく野犬
あざとく遺されたあたたかい痕跡の数が
ひとつずつ増えていくたびこの街の領空を
春鳥が埋め尽くしてはそこに勝手に墓標をたてる
花ばなの刹那/街角でなにかに
つよく赦しを請う系統樹はやがてひとりでに発火し
永い軌跡の亀裂へと液体のながれは招かれていく
潤いのない裸体/ひとがたの四肢の分岐
ものを言わなくなった螺旋たちが赤い水面に
ぷかぷかと浮き沈みを繰り返しているのがみえる
すなわち水の領域にもいきたものは触れない
いきもののない街がそれでも街たらんとするさなか
仄白く発光する繭にくるまれた婚姻がうたをうたう
その声だけがか
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