家族の食卓/角田寿星
おかあさまが わたしをころした
おとうさまは わたしをたべてる
私が悲愴にも似た決意のもと食卓に赴くようになったのは
いつからだろう。かわいそうなグレーテル。父と母と兄の
待つ戦場へ抜けるほそい隧道をひとりランプをかかげて。
照明をおとした食卓に会話はない。テーブルにはおびただ
しい屍が変容を終えてソースの海に漂っている。用意周到
な美辞麗句に私はもう惑わされない。薄い被膜を破ったと
たん赤い漿液がダグダグと溢れるんだ。エプロンを着けて
はじめて母と台所に立った遠い日。裸の腕でつぎつぎと絞
め殺したウサギのにごった瞳。私はテレビをつける。ブー
ンと低くうなる電気音。
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