花売り/紅月
 
空へと放たれていくのがみえる
街を徘徊するはじまりの器官が
その熱だけをあけわたして
誰の名も埋葬されたあとに
遊びだした指だけが先行するから、)


献身をゆるすならば
ゲシュペンストの麓におりて
誰もいなくなった真夜中の歩道橋で
名も知らぬあなたはうたをうたってください
幾重にも波打つ神話は弧を描きながら
声のない閉ざされた公園の隅にある
「叡智」と名付けられたシーソーを大きく揺さぶって
その中心に立って動じぬ遠い母の
臀部は経血に濡れていた(青い、)


裏路地の排水に浮かぶ廃油
涌きあがる昆虫たちには骨がない
着飾った裸体でたかく神の名を呼べども
方舟に招かれることはなく(空には、
緒が走っているのがみえる、がんじがらめで)
強烈な逆光に彫りこまれた影のなか
醜く罵りあった、紫痣だらけの
砂が尽きたらまたしずかに時計を返して
はじまりの帰路のうえに溜まった細やかな砂が
真冬の額をどこまでも汚しながら
ギムナジウムの瞳の凪いだ深淵の底
あざやかに宿る白昼へいつまでも残響している



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