花売り/紅月
ギムナジウムの罅割れた唇を
なぞる人差し指は青い血にまみれて
この細い裏路地の影のなかでわたしたちはやがて
交わさぬことの愛撫を識り零れていくのだろう
返される砂時計が凍えた額のうえに置かれ
凪いだ瞳からは大量の小砂が溢れてくる
わたしたちはかつて学徒とよばれ
お互いに名前で呼びあうことをしなかった
ひややかな小川が森を横切り
そのどこまでも張りつめた水には
信仰をはこぶ純白の子羊だけが
しずかにくちづけて渇きをいやす
獣のあかく濡れた舌はそのまま流れをくだり
臍のあたりで渦を巻きながら、
(窪みから伸ばされたひかる尾が
幾重にも他の尾と絡みあっては
青空へ
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