今日 一つの悪意がとぐろを巻いていた/ただのみきや
今日 一つの悪意がとぐろを巻いていた
子供の頃に見た陰鬱な景色のよう
すべてが蠢く暗号のように
見慣れた街並みがそのまま
仄暗い陽炎にゆがむ悪夢のように
今日 一つの悪意がとぐろを巻いていた
気づかぬふりをして
足早に通り過ぎる
剥がれかけた壁紙の隙間から
黄変した古い新聞紙が覗く
すすり泣くこどもの
咽び叫ぶこどもの
顔を無くした記憶の断片
車の速度を上げて
ラジオの音量を上げて
意思と知性を手放すな
飛び立つ鳥のように
押し寄せる黒々とした森を離れて
今日 一つの悪意がとぐろを巻いていた
ただ 一人だけ
何気ない面持ちで
呼吸できるところにまで来ると
現実の質感を何度も確かめてみる
安堵して
――ふりかえると
破裂しそうなほど膨れ上がり
鎌首をもたげた
一つの悪意
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