/紅月
と湧きだした対話の糸は
清らかな水の流れとなり砂を濡らす
やがて掌は施しで充たされ
それをオアシスと呼ぶことにしたわたしたちは
その対話を最期にここで別れ
彼らのあざやかな背はすぐに
乾いた霧のなかに見えなくなる
獣骨は流砂にしずみ
永い不通のさなかで
やがて石は風の深淵に身を投げる
幽かな王国の気配だけが
この地平のなかでただひとつ不変だった
影色のつよい風が吹き
王国を覆う黄砂の霧のなかで
蠍のかたちをした遺伝子が座標に列ぶ
行き違うわけにはいかない
いつか訪れるかもしれないのだから
過去の帰りを待つわたしはここに立ち尽くし
現在は
対話の数だけ殖やしてしまった
多くの湖のみが遺言としてここに残る
王国は王国のかたちをしていなくてもいい
数多もの水面がいっせいに凪ぎ
そこにひとつの顔が射しこみそれが
わたしの知るゆいいつの顔だった
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