弓の音/月乃助
前ぶれは風のなか
雨のにおいのする
森は、騒き
心をみだす
( 誰もが平然と目をそむけるそこに、)
山の気はその密さをまし
やってくるものの 大きさをおしえてくれる
生きものは 息をひそめ
岩場のくぼみに 梢のしたに 身をかくした
雨のしずくが、ひとつ 屋根をたたいた
風の音が冷たいゆびとなり 髪を梳く
板張り
白い衣に 片ひざをたて
左腕を ただまっすぐに 忘れていたものをさぐりだすように 伸ばす
右腕は くの字の 持てる力のすべてをこめ
( どうしてこんなことを、するのだろう、)
( だ
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