くれなゐの肉を/吉岡孝次
上野なる動物園にかささぎは肉食ひゐたりくれなゐの肉を(齋藤茂吉『赤光』)
生きるとは命をいただくことだけど罪深くても長寿でいたい
「必要な部位のみクローニングせよ」カーツワイルの博愛工場
口にする一片のため一頭の全き命を絶たねば飽かず
食むことを不思議と蔑ろにして現象学者は身体を説く
朝夕の食事まかなう歳月に老女は到る聖餐哲学
図書館は書物を喰らうカササギか埴谷雄高の『死靈』を贈る
捕食者が被捕食者に延々と告発されて物憂き『死靈』
深夜まで皓々と照る下車駅の屍体売場におんなは熟れて
空腹をソブラエティの敵として食欲もなく独りうろつく
一目見て恋したひとの頬の色 誰が購う紅の肉を
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