灰色腫れ/竜門勇気
部屋の中には
甘い匂いのする本が
足の踏み場を奪うように
寂しい知識をちりばめている
子供がわめく
窓をわざと大きな音を立てて閉めた
重なってる
腐ってる
錆びた皿の上
砂漠に落ちた水銀
ねこじゃらしと馬肥やしが庭に生い茂る
季節はもう無力なんだ
飛行機雲がどこか遠くにのびていた
夏と呼ぶには虚しくて
秋と呼ぶには狭い日
自分で望んで閉じたのさ
茶けたガラスにしゃべる
濁った僕も同じ言葉を返す
ほとんど同時に
暗い場所にはいたくない
寒い場所にはいたくない
いたくないけど
いなきゃならないからいるだけ
ここじゃないどこでもいいけど
どこかに行くだけの理由がないから
どこかで生きるだけの自信もないから
ギロチンがてっぺんに昇るまで笑ってるつもり
比較的平和な国で比較的危険な世界を眺めるより
どっちかとどっちかの間で
狂ってる方が健康的だ
灰色腫れの患部でありつづけるんだ
自分すら得体の知れないままでページをめくり続ける
進行する病を受け入れる
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