言葉にならない/霜天
 
榊が揺れて鳥が鳴いた
庭の隅
雨粒が降りてきた気がする
雨音が聞こえた気がする
冬模様の服を着ようとする頃
紙の上を走らないペンの先で
言葉にならない
遠くの音を待っていた


本当はここには白と黒しかないらしい
その隙間を埋める想像が、空想が
押し合うように充満していて
ここにはこんなにも
色があるらしい


遠く潮騒の聞こえる街で
地平線の長さを測った
こんなにも世界が
両手を広げる内側で
既に沈んでしまった夕日の向こうで
遠い誰かの音も
言葉にならない

僕等の前では
言葉にならない


色という色、音という音
ここにはこんなにも溢れていて
僕の庭からは道が
その先にはあなたがいる
いつだって言葉を投げあうことができるけど
その先の、その先の
地平線の
水平線の
広げた両手の向こう
遠い
遠い
遠い
遠くて
色という色、音という音
言葉にならない
言葉にならずに


四角い部屋の机に
鳥の鳴き声を
紙とペンの上で
僕等は遠くを待っている
戻る   Point(7)