火の断章/安部行人
揺れている――
火が、無人の家に続く砂利道のそこここで、
揺れている、原野の風の行き来にあわせて
揺れている、枯れかけた草の群れが、
火が跳びはねて渦巻く、
日没前の世界に
揺れている、
薄あかるい曇りの日の地平に
灰に灰を混ぜ合わせるように
揺れる
揺れる――誰が?
揺れている――おれの眼が、
燃えてゆく草の煙の渦のなかで焦点もなく
眠りの合間の痙攣のように
揺れている――眼――何も捉えられない。
∴
おれは駅にいた、
何もない平野の東端の駅に。
ここでは誰も列車に乗らない。
ここでは誰も列車を降りない。
正確
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