九九/
カンチェルスキス
覚えたての九九を妻が口ずさむ
大切なものは奪われても
忘れなければいいのよと妻が歌う
夕暮れ前に一瞬空が明るくなり
テーブルのりんごやみかんやバナナが色を手に入れた
頬杖つきながら
文字の消えた雑誌をめくる手をとめて
妻が振り向かずに言うこの調子ね
それから覚えたての九九を妻が口ずさむ
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