チンポコ音頭/花形新次
 
塗料が剥げた
一部むき出しの看板
××酒店の文字が
マグマのように溶けだした
アスファルトの傍らで
孤独の声を上げる

何食わない顔をして
過ごしている

もう忘れてしまったなんて
嘯いている

記憶の棘は
おまえたちの心に
婉曲に突き刺さったまま
傷口は
まだじゅくじゅくと膿んでいるのに

おまえたちは自己同一性が
影も形もなくなってしまった
場所に立って
昔ここは夕方になると
蛍が飛んでいたんだよ
などと感傷に浸ることは許されない

歳の近い叔母と
並んで歩いた畦道を
思い出として語ることは
許されない

そう、許されないのだ
許されないのだ

許されないのに

ついこの間資格を得た
初心者のように
制限速度超過で

あっと言う間に
置き去りにしようとしている
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