失語症の彼岸花/高原漣
 
ぼくが石になった夜、

その娘は音もなく泣いていた。

「泣かないで」なんて

言えるわけもない

ぼくは石だった。

真っ赤な真っ赤な彼岸花、

どうか泣かないでおくれ

さざれ

石の、

巌となりて

千代に八千代に

きみの平穏を祈る。

ぼくはもう

うんともすんとも言わないけれど

二人ともおし黙ったまま

夜が明けていく

意味がことばに満ちていく。

ことばは、もうないけれど。

華の朱さだけは変わらないんだね
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