むきあう人/乾 加津也
礼を尽くして
空き缶をいただく
あなたの日々は
わたしの知らないところで
正々堂々
みずからの命と向き合っている
早朝
髪をかき乱し
欠伸をしながら外に出る
籠にあふれるビールの空き缶
置こうとするわたしに
見知らぬ笑顔のあいさつが出迎える
「おはようございます」
「いただいてもよろしいですか」
安くても
折り目正しいスラックスの老紳士の
その
細く硬く
骨ばった腕が
わたしの籠の取っ手を通して
電気のようにつながった
キコエ マスカ
わたしはこれから
いつもの代わり映えのしない仕事に行くのですよ
生きることを誤魔化しに
ひたすらな自分を慰めに
出かけなければならないのですよ
そんな今(げんじつ)をしっかりと受け止めながら
あなたはひと時
たしかにわたしと
ある
晴れた日に
(恋月 ぴの さんに似せて)
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