朝を待つ/コーリャ
 
。朝は来たが。朝焼けはみえない。老いた羊の群れのような雲が現れ。間の抜けたスロー再生で雨を降らせる。長いあいだ。女は砂に頬をつけて横たわっていた。 落ちた泥まみれ手首を唇にあてようとして。やめる。冷たい鉄が重く。冷たい。誰かが叫んでいるけど。わざと振り返らないで。進む。いまさらやっと海の匂いがする。灰色の海の光と闇の段々がさね。水平線のはるか遠く。白と青があざやかに手をつないでみえるのは幻想だね。風が朝から逃げていきざま、彼の長い前髪を開け放つ。緑灰色の泡立ち。僕の頭のなかで水滴が水面を打って水紋をつくる。体を捨てたあとの腕の温感。少しだけの眩しさ。なぜ光っている?どこが?海。海。海。と口当たりのいい言葉で。暁で空にかえっていくはずだから。望まれない冷たさと角度で。朝焼けはやってくるから。


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