高円寺で亀を買った/馬野ミキ
死にかけなのに、俺の指に捕まっている力はまだあるんだな
こいつは土の中で七年、何を想っていただろう
どういう衝動の残りカスとその気力が
彼を動かすか?
半年前に
巣から落ちた死にかけの雀のひなを家に持って帰ってきたことを思い出した
ああ 死ぬということは
その傍にいることは
とても静かで こころが安らぐ
家に帰ってこの文章をいま書く
せみっちは少し飛んだこともあったが
いまは俺の右肩にいる
左の指から昇って俺の右肩に留まる というコースを二回たどったので
俺のそこがせみにとってちょうどいいんだろう
この蝉は今からしばらくしたら死ぬだろう
ちゃんとセックスして子孫は残せただろうか
きみが長らく真っ暗闇の世界にいた甲斐が、この世界にあっただろうか。
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