牢獄の女/田園
私は思い切って顔をあげた
男は黒い肌にシンプルなシャツを着ていた
あらためて顔を見たのは初めてだ
眩しくて
また下を向こうとしたら
「あいしています」
耳が
心が
体が
魂が
螺旋階段を落ちていく
今
なんと言った
なんと言った
監守は何かを男と話し
私を牢獄から出した
手枷も外された
何も理解できなかった
今までの男の言葉よりも理解できなかった
ただ
男の視線がやけに優しげで
私は信じていいのか
信じてはいけないのか
戸惑い
睨んだ
だが男はまた
「あなたがすきです」
と
睨んだ
男はほほえんだまま
私は
私はもう
奴隷ではないのだろうか
そう思うと
男の柔らかな表情を見る
何故
その問いは答えが見えないが
流れてみようか
そう思った
まだ
笑えないのだけれど
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