椨(たぶのき)ー上総国分尼寺/……とある蛙
 
広い野原に
抜ける空

ぽつんと
ぽつんと
木が立っている

横に広がる枝ぶりと
見事に茂る葉 葉 葉
空と甍のその間

広がる枝を覆い隠す
天平の空の庇に
広がる椨(たぶのき)

抜ける青空
白い雲

ぽつんと
ぽつんと
木が立っている。

赤い柱の回廊は
天平甍の復元で
金堂横のタブの木は
甍を上から見下ろして

ぽつんと
ぽつんと
立っている

一三〇〇年もの 大昔
かの国に負けないため
海から見える
立派な寺院

民草のためとは
いいながら
周囲の村落から孤立無援

ぽつん
ぽつんと
建っている。

そのうち寺は朽ち果てて

律令の大国
親王任国上総は

開墾地主の
武装農民の天地となった

そして
そのまま寺は朽ち果てた

だがそこから かつて
六〇メートル以上の高さの
七重塔も見えたのだ

今の建物よりご立派な
七重塔も見えたのだ
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