十五の春の走者/木立 悟
低い雑音が
長い指で部屋を握る
振り落とされそうになりながら
いつかは終わる
いつかは終わると
言葉を噛みしめながら
揺れを震えを聴いている
誰の声にも触れなかった日
誰の息にも触れなかった日
背中につづく帰り道
落ちる陽の音が打ち寄せる道
電線の無い電柱から電柱へと
わたり歩くものの足音が降りつづく
滴の影に消えてゆく木々
やがて遠のく声の鳥たち
水色に叫ぶ狼はやって来ない
笑いの猫は笑いを脱ぎ
魔法の竜は魔法を捨て去る
本を閉じ
ふたつの目を閉じれば
からだじゅうの目が
涙で潰れながら見ひらかれ
独りの向こう側を見つめている
一度あがったはずの踏切が
突然落ちてくるのを避けて
戸惑う夜に走り出すもの
いまだ狼にはなれぬまま
休み休みうつむきながら
今日も 明日も
いくじなしの旗を振り
中庭の春を駆けてゆく
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