「ヒグラシが鳴いている」/ベンジャミン
 
台風何号かの接近を数えているうちに
夕暮れの窓から入り込んでくる
それはいつの間にかやってきた
秋の気配をはらむ風

誰かが、もう夏も終わりねと呟く前に
静かに後退してゆく日々を
僕は前進しようとする

それは、生きるという単純で困難なことに
たった一つの意味でもいいから持たせて
きれいに終われたらなんていう
残暑の熱にうなされながら
それはまた本能のように願うことに似て

涼をもとめてあびた水が
まるで羊水みたいに包んでくれるとしても
僕はいったい何とつながっているのだろう


(ヒグラシが鳴いている)


やはり悲しいのだろうか
悲しさを忘れよう
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