宛名のない手紙/動坂昇
も、女の人にも、おじいさんにも、子どもにも、ほんまにひどいこと、いっぱいしよったのに、ぜんぜん、ひとことも、あやまってへんやろ? そんな残虐な日本人に、あたしはなりとうない」
その子は、まっすぐ私の目を見て、そう言いました。幼い私は驚いて、何も言えず、ただ見つめ返していました。
そのとき、その子のお母さんが迎えに来ました。その子のお母さんは、日本人です。日本人を憎んでいるその子は、日本人のお母さんと手をつないで、韓国人のお父さんの待つ家へ帰っていきました。
私は、あれから何度も、ふたりの姿を思い出してきました。あの子は、どんな気持ちで、自分の憎む日本人であるお母さんと手をつないでいたん
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