境目も変わり目もなく ただ足音が響くだけ/ただのみきや
 
てる力がなく
泣く泣く平和の首に手をかけた
そして戦争に向かって言ったのだ
  
     「わたしの代わりにいつかおまえが
           平和を生んでおくれ
           立派に育てておくれ」

だが戦争の子どもは戦争でしかなかった
長い歴史の中でごく稀に
隔世遺伝の平和が生まれたこともあったが
やはり未熟児で長くは生きられなかった
戦争は今も親に言われたことを守り続け
いつか平和を生み出せると信じては
多くのいのちを奪い続けている

ただ 人だけが全てを忘れたかのように言う
   
   「わたしは平和を愛している
       わたしは戦争を憎んでいる」  
  
突然 土砂降りの雨が激しく地を打ち叩き
暗雲が破れ陽光が降り注いだ
今 全てのものが黙していた
世界とわたしを隔てるはずのフロントガラスの上を
水はとうとうと流れ 光を揺らめかせた
世界が泣いているのか
自分が泣いているのか
境目も変わり目も見出せないまま
ただ 黙するしかなかった
近づいて来るものと
去り行くものの気配を感じながら

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