病院が墜ちる/草野春心
 


  陰気な病院が
  頭の方から
  青空をゆっくりと降りてくる



  逆さまになったまま
  患者のひとりは今、
  あざやかなレタスを食んでいる
  桃色の看護婦がその横で
  そそくさとしびんを交換する



  外はよく晴れていて
  狭い部屋のすみずみにまで
  温かな陽光がしみてゆく
  レントゲンを指し棒で指す医師も
  こころなしか微笑んでいるようにさえ見える
  四十女に乳癌を告知しながら



  間もなくその病院は
  柔らかな草原に墜ちるだろう
  花瓶が割れるよりもずっと穏やかに
  かれらはむしろ潔く息絶えるのだろう
  虫たちが怯みはするだろうが
  一滴の血も流さずに
  影のように
  静けさだけを残して



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