彫刻室座のよる/梅昆布茶
 
まるでぱっとしない南のそらの彫刻室座
でもそれは深宇宙への小窓でもあるらしい

かつてない鮮明さの神の領域が
彫刻家の仄暗い室内に展開されてゆく

ひかりと闇の融合が
可視光の色調の変化をともなって
茫漠の詩篇をなす

宇宙の生成の泡が生命の螺旋となって
無機の岩片にしがみつき
やがては地衣となり羊歯と繁茂して
風をいろどる花となる

ナメクジウオは砂にもぐり浅瀬を泳ぎ
あたたかい海の中で雌雄の夢の断片をつむぎ始める
計り知れない遠い単細胞の眠りが
集合意識となって互いの認識を交換しはじめる

構造は構造を生み永久運動をはじめた進化の糸はほら

空を飛びあるいは直立して建物を作り
蔓延して規範を建て絆を破壊し
自らの加速に酔いしれて浮遊するくらげのように

いま仄暗い彫刻家の黴臭い部屋にひとすじの光が走る
しずかな情緒の薄闇の

彫刻室の安穏な空気のなかで
さらにどこかへ向かおうとしているのだろう

そうすべての夢は去らなければならない
すべての夢はいつかは

死ななければならない




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