たえまなく改行を続けているあいだ/草野春心
 


  夜が、
  たえまなく改行を続けているあいだ
  いくつかのケーキがゴミ箱に捨てられ
  何匹もの犬が鳴きながら焼き殺され
  きみの体に秘められた、すべての
  愛らしい軟骨は溶け



  あのコーヒーショップのウッドスピーカーはもう
  好きとか守るとか会いたいとか寂しいとか
  頑張れば届く程度の夢しか
  歌ってはくれないのにきみは
  雑踏のあいだのわずかなステッチを
  なぞって
  手を差し入れて、ひらいて
  赤く染まった生あったかい果実を
  掴みとろうとしているんだね




  歌えば、朝はくる!
  そう言ってきみはキャンキャン笑う
  一面、陰気なタイルのように僕が
  敷き詰めた目いっぱいのスペースキーの
  きみがスキップで駆けていった部分だけが
  橙色に発熱してゆく
  信じてもいいだろうか?
  歌えば、
  朝がくる。



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