さよなら、と黒焦げた蛾は言った/ホロウ・シカエルボク
のよ
歯科検診の診断書と同じようなものなのよ、そのことたぶんあなたは分かってるわよね?だってこんな時間でもなけりゃそんな詩書いたりしないでしょ?
あなたは小手先の装飾なんかじゃ満足しないわ、あなたが付けたい色は動脈と静脈の色だもの
ねえ、あたし、それが分かるのよ
ああ、と俺は言った、ああ、とひとことだけ
蛾はこのやろ、という感じで羽を小さくゆすった
そのせいで
やつの羽の輪郭はぼろぼろと崩れていったのだった
雨は次第に勢いをなくし
隣家の屋根の上では呟きみたいな音だけが残った
車がクルージングみたいに飛沫を上げながら通り過ぎ
そして俺はとうとう眠くなってきた
おやすみ、と俺は蛾に話しかけた
さよなら、と黒焦げた蛾は言った
雨はもうすぐ上がろうとしていた
俺は窓から離れた、うんざりするぐらい汗をかいていたけれど、だけど
たぶんぐっすり眠れるのだろうと俺は思った
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