距離/梅昆布茶
 
僕達は小さな距離のなかでひしめき合っていて
森の木のみえない生き物なのだ

下ばえのひんやりとした塊の世界で緩慢に
じぶんにつまずいてゆく愚か者なのだ

僕たちの祖先は宇宙の果てから流れ着いた阿呆船にとじこめられた
文明の搾りかすだったのかもしれない

あるいは牧場に放たれた仄暗い視界の異形の家畜
進化と生殖のいいかげんな培養土が棲家のハネウサギ

きみは今日は研修で名古屋に居るらしい風のたより
ぼくは不動ヶ岡の三叉路を暗闇にむかって転げ落ちていた

130億光年のきのうにあたらしい幾何学の定理を見出すガウスのように
僕達は幼年時代の自明をうしなわずに走り続けるのだよ

そして息継ぐまもなく輪廻の影をおいかける
あしのない案山子なのだ

堤防からのぞんだ岬の突端には宇宙からの電磁波を中継する
ふるい白い灯台があってそれはたまに迷い人のこころを
ふかくやさしい霧の中へ誘導しているのかもしれない


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