水路/綾野蒼希
固く強張った叫びの表面から
水が剥がれる
一枚の皮膚のように
音もなく
樹齢千年の眼差しに救われて
水は
季節の波紋を揺すり
懐かしい演奏を軸とする
流れと
陽光の到着を待ちながら
密やかな微笑を湛える
系譜を持たず
距離を置かず
やがて旅立ちの時は来た
水路は晴れて形成されたのだ
書斎に書き残した主眼
隣人に預けられた鍵
驟雨に溶け込んだ韻律
水は入り江の吐息に導かれ
蝶の影と戯れる
少しずつ澄み渡っていく
沈黙の境界を越え
来歴と別れを告げる
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