きんいろ/鯉
浴びて虫になって入ってきているようだった。みんな顔を掻き毟っていた。それが老人みたいで、掻く気になれなかった。
「あーうぜえクソ虫がうざいうざいうざい」煙がどんどん車内に満ちてくる。
視線の端に金色があった。おれの肩に一匹の蝿が止まったのだ。ロングピースが消えるのを今か今かと待ちわびているようなそぶりで、蝿はじっとしていた。ともだちがああうぜえうぜえと喚いている。おれは吸って、吐く。掻かない。吸って、吐く。掻かない。吸って、吐く。掻かない。Hも喚きだした。蝿はじっと傍観している。吸って、吐く、掻かない、吸って、吸えない、もうフィルターだった。灰皿に押し付ける。次のたばこはもうなかった。
車がどこに向かうのかわからなくなったから、とりあえず顔をぼりぼり掻き始めた。
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