忘れ物/たもつ
期限を過ぎてしまった調書を作成しているときも
怒鳴る上司の最近少なくなった髪の毛の本数を数えているときも
それは形の無いままテーブルの上にあった
待ち望んでいた終業時間となり
一杯どう?という同僚の誘いも断り
一目散に帰宅する
テーブルの上にはもう何も無かった
時間になると消えてしまうもの
だったのか
それでも諦めきれず
テーブルの下を覗いてみたり
引出しを開けてみたりする
「あなた、何をしているの?」
「いや、別に」
妻に見られては困るもの
だったかもしれない
そういう彼女もどこかそわそわしている
何かを探しているようだ
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