白い水/竜門勇気
子供の頃に
淡雪ひとつかみ
瓶の中に入れた
白い雪は
溶けて水になった
どこにでもある水になった
子供の頃
白い絵の具ひとつまみ
雪解け水の瓶の中に入れた
白い絵の具は
薄汚れたつまらない色になった
牛乳より薄くて
雨粒より濃い
子供の頃の僕は
そいつを引き出しに仕舞いこんで
そして忘れる
ある日突然に
父さんは引越しをするといった
僕は沢山のものにさよならを言った
荷造りが憮然とする僕のまわりで
ぐるぐる回って終わり
四角い部屋が残って
あまい木の壁の匂いがそこに戻ってきて
恐ろしい何かが僕の手を取り
扉を開ける
あの白い水は
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