ぱくぱく/たもつ
 

「そもそも、わしが生きていたころは」
生きていたころは、なんて言うくらいだから
やって来たものは
今はもう生きていないものなんだろう

「そもそも、わしが生きていたころは!」
今はもう生きていないものは更に声を張り上げる

生きていたころがいったいどうしたというのか
今はもう生きていないものは口をぱくぱくさせて
途方にくれている
思い出せないのだ

僕は電話をする
今はもう生きていないものが生きていたころへ
なのか
僕が今はもう生きていないものになるころへなのか
わからないけど
電話は息づかいしか届けない

ぱくぱく
ぱくぱく

小さく響かせながら
今はもう生きていないものは夜みたいな静けさになる

やがて忘れる今日を
僕は生きつないでいく



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