ぱくぱく/たもつ
「そもそも、わしが生きていたころは」
生きていたころは、なんて言うくらいだから
やって来たものは
今はもう生きていないものなんだろう
「そもそも、わしが生きていたころは!」
今はもう生きていないものは更に声を張り上げる
生きていたころがいったいどうしたというのか
今はもう生きていないものは口をぱくぱくさせて
途方にくれている
思い出せないのだ
僕は電話をする
今はもう生きていないものが生きていたころへ
なのか
僕が今はもう生きていないものになるころへなのか
わからないけど
電話は息づかいしか届けない
ぱくぱく
ぱくぱく
小さく響かせながら
今はもう生きていないものは夜みたいな静けさになる
やがて忘れる今日を
僕は生きつないでいく
戻る 編 削 Point(2)