鵺/ゆえづ
 
風鈴の音 きいんと透けて
わずかな'かげり'に
縫いとめられた記憶をめくる
甘やかな午睡の あと

ブラインドの引きヒモを握る
強く握って また
ひゅうひゅうと眠ったふりで
憎いのは誰かを思い出せずに
四肢に垂れ下がる湿気を厭う 貴方は
肌を覆う苔を撫でながら
舌を千切り
全閉後 一切を貴方ぶちまけ
真一面のバーミリョン、

差出し合った、傷口の
ワセリン滴る、夢先の
ながい疼きを舐め上げて
うるさい赤に
深いゆるしを聞きました

頬にびっしりと走る涙痕は
花脈のように打ち震え
張りついた水底に河骨の嗚咽が揺れる

爪をかじり 幼子の仕草で笑う
貴方、明け方の窓辺
感電死した鵺の声を聞きました
生焼けのサイレン、
夜の森へ
走り消える星
徒花、
はらはらとくずおれ
貴方
よどんだ光を湛え
また、ひとつふたつ手折るのです
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