ごくありふれた美しい東京の風景/きや
隣のサラリーマンも心配してくれている(のか分からないのは、魚の表情は読み取れないからだ)。
すると座席や吊り革から大小様々の黒い虫が現れて俺を取り囲む。うわぁぁっ!と叫んで追い払おうとしたのだが1匹がおれの右手の中指に噛み付いて離れない。
ミチミチッと嫌な音がして、その虫がおれの指を食い破り皮膚の下に侵入してきた。手の甲に虫1匹分の不自然な盛り上がりがある。
おれは思わず爪でそこを掻き毟った。勢いよく虫を抉り取った。虫はビチビチと床を跳ねている。けれどうっかりおれは自分の眼球まで抉り取ってしまったのだ。しかし、おれに眼球なんてあっただろうか。
片目で見た世界は丸く広い。電車は間もなく終点に着くというので、おれは漫画喫茶にでも泊まろうかと思っていた。サラリーマンはいつの間にか目の前に座っていた可愛い猫とお喋りしている。本当にあいつらは喋っていたんだっけ。
右足が地面から離れなくなって、ようやくおれはここが電車でないことに気付いたのだ。アレを持ってきてくれ。出来るだけ早く。
俺は声の限り叫んだ。
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