続・田村隆一詩集 現代詩文庫を読む/葉leaf
せていて、その根源から、鋭く絶対的な恐怖という垂直性を感じ取るということ。これこそが田村の一貫した倫理であり、一見状況に対して水平的・受動的でありながら、人間存在については鋭く垂直的であるという、田村の本質がここにあります。
さて、「青い十字架」を読み返してみてください。「不定形で流動的な結晶物は やがて咽喉部の暗い通路を まがりくねって降りて行くと」とあるように、不定形なものに対する恐怖、暗くて狭い通路に対する恐怖、曲がりくねることの恐怖など、この詩には恐怖が深く刻印しています。そしてこれらの恐怖は恐怖であって不安ではないのです。その都度その都度の社会状況、あるいはこの詩が書かれたもとになった体験の状況、そういうものからは独立し、純粋に根源から湧きあがってくる恐怖、それがこの詩には描かれていて、この「恐怖」のモチーフは、田村の詩においてはずっと維持されるのです。
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