サイレント/永乃ゆち
雨に濡れて
乾かない髪を
結い上げたままにして
服を脱ぎ散らかす
バスタブにうな垂れて
泣きじゃくった声は
シャワーの音に
かき消されて
何も残せず
何も成せず
雨に濡れて
乾かないハイヒールを
玄関に放り出したまま
ベッドになだれ込む
枕に顔をうずめて
泣き叫んだ声は
ボリュームを上げた
深夜の洋画にかき消されて
何も話さず
何も聞かず
24時を過ぎると
みな等しく魔法が解ける
鏡に映った私は
ただの
女だった
何も残せず
何も成せず
何も話さず
何も聞かず
あの人が最後に言った言葉も
雨の音に
かき消されて
二人の未来も
時間も
かき消されて
濡れた髪のまま
涙も拭わず
独りになった私は
どうしようもなく
ただの女だった
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