熱源/砂煙
 
も書き残してはいなかった。描いて、描けて、描けていなかった。何も。
押し入れの中はじめじめしていて、そこで生まれたのではないかと。自分は。錯覚。皺、ひ
とつないスーツを着たまま押し入れの中で眠った。スーツがきしむ音が微かにするのを寝な
がらに感じた。やがて堅くなったスーツは薄氷のようにバラバラに割れてしまった。もう拾
い集めようともしない。夢ではなく、ただ自由帳はあれからずっと腐ったまま。

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