白い息を吐く。/永乃ゆち
もうじき冬が来る。
あの人に出会った冬が来る。
あの頃私は浮かれてて
名前も知らない出会いだけを信じていた。
春に出かけたダムには
まだ氷が張っていたし
山には雪が残っていた。
夏の夜ごとに苦手な坂道を克服して
星を見に行った。
反射板が滑走路に見えて
何処までも続いてると思った。
その先は何処だったろう?
紅葉の約束も出来ないままで
また冬が来る。
振り向けなかった沈黙や
責められなかった笑顔が
あの人の我が儘と私の弱さを教えてくれた。
そしてもうじき冬が来る。
忘れられた笑い声が
たまに白い息を吐く。
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