不通の人々/海里
わたし
わたしたち、という言葉のためだけに
ひとが生かされているとしても驚きはしない
わたしとあなた、だったり
わたしとどこかのだれか、だったり
全国民よ同胞よ私たちはー、の私たちだったり
違う国はるかな過去のあなたとわたし、だったり
物語の中の少年とわたし、だったり
ひとですらなく
ひとひらの木の葉と暗渠の果ての海とわたし
開闢以来宇宙全ての星々と銀河とわたし
ニュートリノの一粒とわたし
ヌートリアの一頭とわたし
そのわたしたちの遠さ
そんな広さでさえあり得るわたしたち
普通は届かない
けっして何かが通じ合うことはない
けれど思うことだけはできる
それだけは絆だ
どこまで遠く思うことができるか
細く深く投じることができるか
わたしたち
わたしたちという言葉を
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