回顧/瀬崎 虎彦
 
冷たい峰を横切りながら
清冽な印象を残し融解する
旅人は柔毛濡らす
輪郭は呼応しない内容

それはたとえば月、芒(すすき)
緑青の浮いたピアノ線
酔いどれ男たちの真心と
空洞の地球儀の南半球、北半球

希釈したベネトリンの霧の中で
ギリシア由来の病名が
苦しいパイプオルガンのよう(それを吸入する喉)

筋肉を弛緩させて楽になることは
死を選ぶことの小規模な複製でしかない
ざらついた月の表面、その凹凸
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