自殺ホテル/吉岡孝次
「ホテル・ニルヴァーナ」。礼二は夏期休暇の一夜をそこで過ごすためにチェックインしていた。興味本位の、好奇心を満たすために。
自殺者が出た家屋やマンションは、それが賃貸であれ分譲であれ、訳あり物件として格安物件になってしまう。ましてや、死後の発見が遅れれば、屍体は腐敗し、その原状回復も容易ではない。そのことを嫌う良心的な(?)自殺者であれば、終焉の地に戸外を、すなわち鬱蒼と茂った森林や海に臨む切り立った岩場などを選択せざるを得ないことになる。だが、それでも屋内で死にたい、浴槽に電動シェーバーのコードを垂らして感電死したい、睡眠薬を過剰摂取してベッドの上で中毒死したい、あるいは縊死した骸を獣や虫
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