使えないもの/佐々宝砂
 
使えないものがある
持っていないのではなくて
使えない
使い方を知らないのではなくて
使えない
使える状態に保存してあるけれど
使えない
使わないのではなくて
使えない

相当に苛立っている夜など
それを使いたくて使いたくて
使いたくてたまらないので
とりだして眺めてみたりもする
息を吹きかけて
革で磨いてみたりもする
使えないことはわかっている
使うべきでないこともわかっている

珈琲を淹れる
ストーブをつける
読みさしの本を開く
なるべくゆったりした
長調ではないピアノ曲などかけてみる
もちろん
少しも集中できない

使えないそれがなんなの
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