使えないもの/佐々宝砂
使えないものがある
持っていないのではなくて
使えない
使い方を知らないのではなくて
使えない
使える状態に保存してあるけれど
使えない
使わないのではなくて
使えない
相当に苛立っている夜など
それを使いたくて使いたくて
使いたくてたまらないので
とりだして眺めてみたりもする
息を吹きかけて
革で磨いてみたりもする
使えないことはわかっている
使うべきでないこともわかっている
珈琲を淹れる
ストーブをつける
読みさしの本を開く
なるべくゆったりした
長調ではないピアノ曲などかけてみる
もちろん
少しも集中できない
使えないそれがなんなの
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)