生活をしていると/岡部淳太郎
ながら
良きものへと変ってゆく
意味などないから すべては愛しく
すべては記憶のように貴重だ
今日も買い物をして ごみを出して
人々の集まるところに行き
隣人に挨拶をし 伝言を伝え
伝えきれなかった秘密に思いをはせては
かつての自身の弱さ いまもつづいている弱さを
改めて見つけ出してはふたたび覆いをかける
私は良きものになど 到底なれないだろう
なれないからこそ ここで生きて
次の時間に向かって溜息をつくことが出来る
その息で埃ひとつ吹き払われる
わけでもないのだが
生活をしているという
この奇妙な安堵感は何か
いまここで日々生活をしているという
満足と 楽しみ
そのことに私は思わず
笑い出したくなってくる
今日も明日も 昨日と同じように
あれもこれもしなければならない
そうでなければ間に合わない
そのようにして追い立てられながら
日々の中に沈んでゆく
私の存在は生活の中でひたすら薄く
のっぺりと引き伸ばされる
天気の良い日の帰り道に見上げる
西の空のあの雲のように
(二〇一二年六月)
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